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サニーサイド四畳半

女児向けアニメ好きゲーマーによるゲームブログです。

『Papers, Please』 そんな眼差しで俺を見ないでくれ

ゲームレビュー PC ☆☆☆☆☆

僕の低スペックノートPCでも遊べそう、という事で遅ればせながら『Papers, Please』をプレイしました。

…何故もっと早く遊んでいなかったのでしょう。ゲームデザインの独自性、プレイすることで補完されるナラティブな物語、それらの調和によって生まれる感情は、他の作品では味わったことのないものでした。

今年遊んだ中では暫定ナンバーワンの素晴らしい体験をもたらしてくれた、大傑作のレビューです。

 

楽しさと苛立ちの綱渡り

主人公は戦争が終結したばかりの共産主義国家、アルストツカで入国審査官の職に就くことになります。

操作はほぼすべてマウスで行います。基本的な業務内容は、入国希望者が提出する必要書類をチェックし、問題が無ければ入国許可のスタンプを、不備があった場合は入国拒否のスタンプを押す、これだけです。

これだけ、というのは言葉の綾で、実際にやってみると、プレイヤーは注意力をフル回転させ、常に集中を切らすことなく全力で業務に臨まざるを得ません。

戦後間もないアルストツカは非常に治安が不安定、隣国との対立も水面下では続いており、良からぬ考えを抱いてアルストツカに入国しようとしている者も少なくありません。そんな状況ですから、入国のための条件は日に日に厳しさを増します。必要書類はお国の都合でどんどん増えていき、ひとつひとつの書類に対するチェックもより多くの手順が必要になります。これらによって最も負担を被るのは当然審査官たるプレイヤーです。

初日はアルストツカのパスポートを持った国民のみを入国させるだけの簡単なお仕事だったものが、外国人の入国が許可されると、生年月日、名前、滞在の目的、期間等に各種書類や証言の矛盾点が無いかの確認が必要となります。書類の有効期限も気を付けなければなりません。

どう見ても「男性」なのに書類上「女性」だった場合はレントゲン写真を撮り、書類の顔写真と現在の容姿が似ても似つかなかった場合は指紋認証で書類が正しいことを証明しなければ、正しい手続きを経たことにはなりません。間違った判断を繰り返せば当然ペナルティを与えられます。

このあたりの「ムジュン」を見つけ出すゲームプレイは、かなり乱暴に言ってしまえばリアルタイム版『逆転裁判(裁判パート)』と形容して良いかもしれません。しかし本作はそれで終わりでは無いのです。

さらに治安が悪化すると持ち物検査が導入され、武器や麻薬を隠し持っていないかのチェックも行う事となります。伝染病が流行ればワクチン接収の証明書のチェック。挙句の果てにはむりやり国境を超えようとした者への狙撃すらもプレイヤーが行うこととなるのです。どんな職場だよ…

 

本作のゲームデザインにおける特異点のひとつとして、作業台の「狭さ」にも言及しましょう。入国希望者の提出書類は、プレイヤーのクリック&ドラッグによって審査室の作業台に広げ、各種項目のチェックを行うのですが、この作業台が本っ当に狭い。必要書類が4枚を超える中盤頃にはすべての項目を一度に閲覧することなど不可能となります。

あまり見なくてよい項目に重なるようにより重要な書類を上に配置するといった、自分に合った机の使い方にも気を配らなければなりません。

 

勤務時間はAM6:00~PM6:00の12時間(現実時間で6分)、日給制となっているため、一日が終わるたびに正しく捌いた入国希望者の数によって賃金が支払われます(つまるところリザルト画面。ここでミスした回数の確認や、後述する出費の取捨選択も行う)

主人公は三世代を養う大黒柱なので、日々稼いだ賃金で家賃、家族の食費、暖房代を支払わなければなりません。食費や暖房代をケチれば家族はたちまち体調を崩し、治すためにはより高額な薬が必要となります。そして死ぬ。劣悪な職務内容でも死にもの狂いで稼がざるを得ないのです。

 

ここまでのシステム紹介を見て、「楽しそう」と感じた人は稀でしょう。しかし、本作は紛れもなく楽しいのです。

日に日に複雑化していく業務内容に、プレイヤースキルの向上によって徐々に上手く対応出来るようになるのは、実に純粋なゲーム的快感と言えます。

また、本作ではほぼ毎日審査内容に変更が加わるのですが、プレイフィールが大きく変わるような変更の翌日はプレイヤーの「慣れ」への配慮からか、さらなる変更はありません。加えて審査内容が変わった直後には、必ず直近の変更点に「問題」を抱えた、チュートリアルを兼ねた入国希望者が現れるのです。

これらスキル向上を適切に促す調整の存在もあり、本作はゲームとしての確かな楽しさと、理不尽だが投げ出す訳にはいかない労働への苛立ちという、相反する感情を絶妙なバランスで両立させています。

その証拠に、僕はこのゲームを立ち上げようとする時、実際に仕事に赴く時のように気が重いし、躊躇います。しかし一度起動してしまうと、黙々と熱中し続ける自分が居るのです。

 

お役所仕事発生メカニズム

絶妙な難易度バランスを誇る本作ですが、それでもファーストプレイではほとんどのプレイヤーが、まともな稼ぎを得られず主人公の家族たちを死に追いやってしまうでしょう。その原因はスキルの至らなさだけではなく、業務を「真面目に」、「丁寧に」行っている事にもあります。

前述したように、書類の顔写真と現在の容姿が異なる入国希望者を入国させるには、指紋認証の手間がかかります。でもこれは対象者の望みを叶えようとすればの話。「容姿が異なるので入国は許可できません」で突き返せば、短時間で審査は終わり、ペナルティもありません。こういった方針で勤務に臨めば、より多くの人々を捌けるようになり、自然と収入はアップするのです。時間短縮の為、書類の扱いやスタンプの押し方も、だんだん雑になっていくことでしょう。

入国希望者にも様々な事情があります。母国に居続けたら殺されてしまうと亡命を望む者、アルストツカで共に暮らそうとしている夫婦(この夫婦がまた、後から来る妻だけ書類に不備があるんです)等は、同情を誘います。しかし彼らの望みを打ち砕いたところで、所詮は他人。彼らが殺されようがどうなろうが、プレイヤーに知る術はありません。しかし主人公には守るべき、そして「生死が明確に視覚化された」、家族が居るのです。

プレイヤーはゲームとしての報酬と物語の両面から、入国希望者に非情な態度を取るよう導かれ、やむにやまれず「お役所仕事」に陥っていくこととなるのです。

 

        
入国希望者を疑いの目でねめつけ、雑にスタンプを押してパスポートを投げ返す。僕が操作する主人公の勤務態度はだいたいこんな感じ(0:47あたりから)

 

突き刺さる、穢れ無き眼差し

※ここから書くのは本作で僕が最も感銘を受けた部分で、プレイ前に知ってしまうと衝撃が半減してしまうかもしれません。それでもいい方だけ読み進めてください。

 

物語も終盤にさしかかろうというある日、勤務を終えた際のリザルト画面で、プレイヤーは息子への誕生日プレゼントとして、クレヨンを買ってあげるか否かを選ぶことになります。ここで購入を選ぶと次の日にお返しとして、貰ったばかりのクレヨンで書いた「絵」を、息子から受け取る事になります。

絵にはアルストツカのマークと、1人の人間が描かれています。右下には「papa」と書いてあるので、どうやらこれは主人公のようです。

そして上の方には、スペルを間違えたつたない文字で、「Arstoka Hero」の文字が…

本作において家族の人となりを知る機会はほとんどありませんし、どんな姿をしているかも分かりません。しかし息子が書いた絵を見て僕の頭に浮かんだのは、主人公の妻と息子の、こんな会話でした。

 

息子「ママ、パパはどんな仕事をしているの?」

妻 「パパはね、この国に悪い人が入ってこないように審査するお仕事をしてるのよ。」

息子「そっか、パパはアルストツカを守る、ヒーローなんだね!かっこいいなぁ。」

 

この絵を書く過程には、こんな一幕があったに違いありません。しかし実態はどうでしょう?

主人公は上の決定には逆らえず、狭いブースの中安い賃金で目まぐるしく変わる規則に従事しなければならず、入国希望者の切なる願いにも聞く耳を持たない非情な存在に成り下がっています。あまつさえ書類の不備を指摘し、抵抗すれば警備員に突き出す行為に快感すら覚える最低な男です。稼ぎの足しになればと賄賂すら受け取っています。こんな人間がヒーローな訳が無い

息子の父親を想う穢れの無い眼差しは、主人公の、そして僕の穢れ切った行いを再認識させたのでした。

 

ナラティブが生み出す情動体験

ここ最近のビデオゲームのトレンドとして、「ナラティブ(narrative)」という言葉があります。日本語に訳すと「物語」となるのですが、「story」とは意味合いが異なるとのこと。僕が理解した範囲でこの言葉の意味をまとめると、筋道立ったものを一方的に受け取るのがストーリー、受け手も能動的に干渉することで紡がれる物語がナラティブ、ということのようです。

上記の件は、「息子から絵を貰った」だけで成り立つものではなく、それまでのプレイ方針も重要なピースとなって起こり得た情動体験といえるでしょう。本作では、こういった断片的に語られる物語とゲームプレイが双方向性を持ってプレイヤーの感情を喚起する場面がいくつも見受けられ、今回語ったのはほんの一部に過ぎません。そしてその多くが、プレイヤーの取った行動や判断に対して実に露悪的に作用するのです。

20パターン用意されているエンディングもまた、どれもあっさりしているものの、そこまでのプレイヤーの行いを考えると意味深いものばかりです。

ゲームは「楽しく、気持ちよく」あればよい、という考えの方には、『Papers, Please』は決しておすすめ出来ない代物です。しかし、様々な感情を引き出してくれることをエンターテイメントの魅力のひとつと捉えるならば、本作は唯一無二の体験を提供してくれることでしょう。